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2014年2月20日木曜日

本当に雨量が原因なのか??

今回の伊豆大島の土砂災害の原因は、一般的に「想定を超える膨大な雨量」という風に説明され、判で押したように「24時間で800ミリもの前代未聞の大雨が降った」ということが強調される。

このことでは私が納得行かないことがいくつかあるのたが、大きな疑問点としては、 
800ミリという雨量はふもとの元町で観測されたものであって、斜面崩壊が起きた山の上のものではない 
1982年9月12日(台風18号)にも、24時間雨量700ミリという大雨を観測しているが、なぜこの時には地すべりが起こらず、今回は起きたのか?
という2点である。
今回、気象庁の方から頂いた詳しい資料などをもとに、これらの疑問がある程度解消されたので報告したい。


まず1つ目から述べていこう。

皆あたり前のように、「伊豆大島では800ミリという大雨が降った」と思い込んでいるが、正確には、伊豆大島の中でも気象庁の観測施設(アメダス)が設置されていた「元町地区」で800ミリの雨が観測された・・・というのが正しい。

実は、伊豆大島の中でも、雨が異常にたくさん降った地域と、普通の台風くらいしか降らなかった地域とがある。
真ん中に三原山があるせいだと思うが、この小さな島の中で、降った雨の量が場所によって全然違うのである。

800ミリもの雨量が観測されているのは、実は元町だけで、4キロ離れた北の山地区のアメダスでは、その半分の400ミリしか観測されていない。
それどころか、元町アメダスのわずか1キロ先に設置されている雨量計(東京都)では、24時間雨量600ミリとなっており、わずか1キロ離れただけで、随分と雨量が違うのだ。

他にも、南部の波浮港の雨量計(東京都)も400ミリ程度の記録となっており、元町地区だけが、突出して高い雨量を記録していることが分かる。

さらに、下の画像を見て頂きたい。
雨雲レーダーによる「推計の雨量」なのだが、右上の24時間雨量の解析を見ると、元町の市街地周辺だけが赤くなっており、局地的に雨量が多くなっていることがハッキリ分かる。

雨雲レーダーによる推計の雨量分析(出典:気象庁)

話は少しそれるが、今回の災害で、元町と泉津地区だけが特に被害が大きかった理由が、やはりこの画像を見るとよく分かる。
雨量の多かったのは、元町地区と、その東北の方角に伸びる赤いエリアである。

この東北方向には、ちょうど元町に次いで大きな被害を出した泉津地区があるのだ。
泉津地区の雨量は、この雨雲レーダーを見ても、また専門家の意見を聞いてみても、「だいたい600ミリくらい」と考えて良さそうだ。
ちなみに、この「600ミリで斜面崩壊が起こった」というポイントは、後で述べるが重要な意味を持つ。


こうしたデータを見てくると、当然「なぜ元町地区だけが、こんなに突出して雨量が多いのか??」と疑問に思うわけである。
それに対して気象庁の気象研究所というところが、「降っている雨が、風に運ばれて元町付近に収束する現象が起こったのではないか」との見解を発表している。

つまり、元町地区に風が吹き寄せて、本来はまわりに降る分の雨までかき集めてきた・・・というわけだ。
この見解には、もちろん異論も出されているのだが、私としては非常に重要な指摘だと思うので、次回「風の影響について」というエントリを書いて、また詳しく取り上げたい。
 →書きました!「砂防ダムと風の影響を考える」


元町に雨が集中して降った原因については、別の機会に検討するとして、とにかく、「800ミリという前代未聞の雨量」は、ふもとの元町地区で観測されたデータに過ぎず、斜面が崩れた山の上の雨量ではないことが明らかになったわけである。

上記の雨雲レーダーの画像を見る限りでは、山の上の雨量はもっと少なそうである。
もし山の上の雨量が本当に少なければ、単純に、斜面崩壊を多すぎる雨量のせいだけにはできないことになる。

では、具体的には斜面崩壊の起こった山の上では、何ミリの雨が降ったのか??
元町との距離やレーダーの色から見るに、北の山と同じ400ミリくらいか??・・・と思ってしまう。
仮に、崩壊発生箇所での雨量が400ミリ前後しかなかったと仮定すると、島内で400ミリ前後の降雨量があった他の地域では、これだけの災害は発生していないので、雨量以外の要因(つまり道路とか)も考慮に入れなければならなくなってくる。

だが、詳しい資料を見てみると、山の上にある「御神火茶屋」という建物にも、東京都の雨量計が設置されていたというので、それを見ることでかなりリアルな数値が分かってきた。
残念ながら、雨がピークに達して土砂災害が発生した午前2時30分頃からは観測ができなくなったらしく、それ以降のデータが無いのだが、その時点までで419ミリという相当の雨量を観測している。

強い雨は、その後およそ2時間を超えて降り続いていたことから、他の観測地点の雨量を参考にして推測しても、トータルでは24時間雨量600ミリを超える相当な雨量になっただろう。

過去の事例からも、雨量が400ミリを超えると斜面崩壊(山津波)が発生するリスクが大きくなると言われているので、確かに山の上でも斜面崩壊を起こすほどの甚大な雨量があったことが、これではっきり分かったことになる。

泉津地区でも、推計ではあるがおそらく600ミリを超えるくらいの雨量があったことを先に見たので、島の中でも災害が起こった2つの地区の雨量はほぼ同じだった・・・という共通性が浮かび上がってきたわけである。
とりあえず、両地区とも600ミリ超の雨量で災害に見舞われた・・・と考えておくのが妥当であろう。


これはまた、他の地区は「たまたま雨量が危険ラインまで達しなかったから災害を免れた」だけなのかも知れない・・・ということを示唆してもいる。
ということは、例えば何年に一度かは発生する雨量300〜400ミリ程度の大型台風で、たまたま一部の地区だけが突出して雨が強くなって500〜600ミリの雨量に見舞われてしまい、同じような災害が発生する・・ということだって充分に考えられるのである。

いずれにしろ、誤解を生むだけなので、今までのような「800ミリという前代未聞の雨量で災害が起こった」などという表現は、絶対に使うべきではないと思う。
とりあえず仮に、雨量が斜面崩壊の原因なのだとしたら、少なくとも「災害の発生は600ミリの雨量で起こった」と考える方が、ずっと現実に近いからだ。

おそらく、800ミリで災害が起こったと考えるのと、600ミリで起こったのと考えるのでは、今後の災害への備えをするのに、心構えが全然違ってくるであろう。

ここでさらに強調しておきたいのだが、本当に重要なポイントは、800ミリとか600ミリとかいった総雨量にあるのではなく、累積雨量が400ミリを超えた時点で斜面崩壊が始まった・・・ということなのである。
これは、「400ミリを超えると危険」・・・という斜面崩壊の重要な目安となるわけだから、今後進めていく災害メカニズムの検討においても、非常に重要な意味を持ってくるだろう。


さて、そこで疑問点は次の 
1982年9月12日(台風18号)にも、24時間雨量700ミリという大雨を観測しているが、なぜこの時には地すべりは起こらず、今回は起きたのか?
ということに移る。 

単純に800ミリという大雨が原因だというならば、過去に同じような大雨が降った場合にも、同じような災害が起きていなければおかしいことになる。

調べてみると、過去にも1982年の台風18号の時には、24時間トータルで700ミリもの大雨を観測しているのに、山津波が起きたり被害が出たという情報がないことが分かってきた。
(ただし、伊豆半島では洪水が起こるなど大きな被害があった。)

ではなぜ、1982年の時には被害が出ず、今回はこれほど甚大な斜面崩壊が起こったのか??

これについては、気象庁のホームページで雨量の推移をよくよく調べてみたところ、1時間あたりの雨量は最大でも50ミリくらいまでしか増えておらず、今回の台風26号よりも長い時間をかけて降った・・・ということが判明した。

台風26号では、長い時間たっぷりと雨が降った後に、1時間に100ミリを超える強烈な雨が4時間近くも続いて、斜面崩壊が発生した。

このことから、単にトータルの雨量だけではなく、短時間に大雨が集中して降るということが、大島の火山灰大地の許容量を超えさせた・・・と考えるならば、やはりこれについてもはっきりとした説明がつくわけである。


・・・ただ、そうであるならば、もうひとつ考えなければならないのが、少なくとも1時間あたり60〜80ミリの強烈な豪雨を観測したことは、1回ならず過去に何度もあるのだ。
そしてそのうちで、山津波と呼ばれる土砂災害が発生したのは、1958年の狩野川台風と、先の2013年台風26号の2回しかない。

台風26号は、他にこれと同じクラスの雨量データが他にないので、とりあえず別格としていったん保留しておこう。
しかし、先にも述べたように、狩野川台風クラスの雨量(=24時間400ミリ1時間最大約80ミリ)は、ざっと見ても何回も観測されている。
それにも関わらず、その中で大きな災害が起こったのは、なぜか狩野川台風の時だけなのである。

このことから類推すると、おそらく、土砂災害(山津波)が発生するかどうかということは、単純に雨量だけではなくて、その時の地表の植物の状況(健全な森に保護されているかどうか)などの「環境要因」にも、大きく影響を受けるのではないだろうか??

このことは、また新たに別の記事を立てて論じるつもりであるが、狩野川台風で斜面崩壊が起こったのは、戦後の復興需要で三原山の森林を大規模に伐採していたことから、斜面の耐水能力が低下していたのではないか・・・とも考えられるのである。

とすれば、台風26号に際しても、雨量だけでなく、その他の環境要因が強く働いた可能性も充分に考えねばならなくなってくる。

つまり、これまで見てきたように、未曾有の雨量が今回の台風26号の土砂災害の引き金になったことはひとまず確かなことではあろう。
しかし、道路や植生の影響などが、災害の規模を拡大する働きをしたという恐れは、まだ全然消えていないのである。

引き続き、自分なりに調査を続け、またリポートしたい。

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