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2014年3月18日火曜日

災害の本当の原因「レス」とは??

3月13日、災害の住民解説セミナーの開催


先日の災害の解説セミナーの様子はすでにお伝えした通りだが、今回はその具体的に解説された内容をお伝えしよう。
報告が遅くなってしまい、誠に申し訳ない。

最初に、この記事で述べる内容はあくまでも、私くまっしぃが理解したことを元にまとめた「くまっしぃジャーナルの見解」であることを、強くお断りしておきたい。
セミナーの解説をされた先生方の見解と、必ずしもイコールのものではない。

また、先生方の解説された内容は、どこか特定の学会や文部科学省・研究グループの統一見解というわけではないことも、重ねてお断りしておく。
また、先生方の研究はまだ進行中であり、これまでに分かっていることをもとに、住民向けに特別に解説して頂いたものである。

その上で、くまっしぃが理解したセミナーの内容をひと言で言わせてもらえば、「今回の災害の原因がだいぶ明らかになってきた」ということになると思う。
もちろんこれはあくまでも、くまっしぃがそう理解した・・・というだけの話である。

だがいずれ、研究と周知が進んでいけば、おのずと学会や行政にも、同じ認識が共有されるようになるのではないかと思う。

この記事では、私くまっしぃ個人の印象や考えを織りまぜながら、どんな内容だったのかをざっくり紹介していきたい。
そして、いずれは録音データをもとに、全ての島民のために、詳しい議事録を作って公開しようと思っている。



「溶岩層」は災害の原因ではない。ではいったい何が原因なのか??


松四先生の話も、1つの項目ごとに話をまとめてくれて分かりやすかった

まず、元町上流地区の崩壊斜面は、横幅が数百メートルに渡るほど幅の広い崩壊であったので、「非常に大規模な崩壊が起こった」と捉えられがちだが、必ずしもひとつの巨大な崩壊が起こったというわけではないという。

細かく分析してみると、幅の細い斜面崩壊がいくつも個別に起こっていて、結果的にその崩壊面がつながっているので、幅広く見えているだけだ・・・ということが解説された。

そう言えば、私といっしょに被災したうちの娘も、「少なくとも2回は、土石流が流れてくる大きな音が近付いてきた」と言っていたので、地すべりが何回もあったことは確かである。

それにしても・・・。

なぜ、三原山の斜面があれほど大規模に崩壊し、崩れたのか・・・??
今まで、このことについては、さまざまな説明がなされてきた。

セミナーの開催前に書いた記事では、専門家の中で一番有力なものと考えられていた「溶岩層が今回の災害の原因であるとする説」について紹介し、それを否定する検証を行った。
この説は簡単に言うと、元町溶岩層という地層が水を通さない「不透水層」であり、それが地すべり面になったのだろう・・・という考え方である。

今回のセミナーの中では、「まだ調査の途中であるが」と断った上で、グループ内の研究者が元町溶岩の地層をボーリングして掘り出し、実際にそこに水を流してみる実験をした・・・という話が紹介された。
それによると、元町溶岩層の上に水を注いでみると「水が(下の地層に)ジャバジャバ抜けていった」そうである。

正式な実験結果(具体的な数値)が出てくるのはまだこれからなのだそうだが、それでも、試しにやってみたら「ジャバジャバ水を通した」というのだから、「溶岩層が水を通さないので、地すべりの原因になった」という例の考えは、やはり間違いだということである。

溶岩というのは、確かに固いので、中身が詰まってカチカチな部分では水を通さないこともあるらしいのだが、ヒビやすき間があちこちに入っているので、少し広い面積で見れば、水はダダ漏れ状態で流れていくのだという。
(※ちなみに、伊豆大島の古い溶岩層が1時間で36,000ミリもの雨量を通すことができるという参考データも紹介された。)

それでは、いったい何が斜面崩壊の原因になったのか??

もちろんひとつの要因は600ミリを超える大雨であることは間違いないのだが、もう一方の地面の側の原因(素因)については、これまで充分に明らかになっていなかった。

そのため、道路が原因なのではないか??・・・砂防ダムが原因なのではないか??・・・杉の植林が原因なのではないか??・・・といった不安の声が、多くの住民から挙がっていた。

今回のセミナーでは、住民がそのような疑問を持っていることに対して、正面から応えて頂き、「道路の影響については、もちろん無かったはずがありません。ただし、影響のレベルとしては小さかったと考えています。」として、そこから災害のメカニズムについて詳しい解説がなされた。



地表から深さ1メートルのところに、水を通しにくい地層がある!!


ヘリコプターから精密なレーダー測量をしてみると、崩壊している斜面では、だいたい地表から50センチ〜150センチの深さにかけて地面が削り取られていることが判明したという。
平均では、崩れ落ちた斜面の深さは、わずか75センチということである。

元町溶岩層の上に載っている火山灰層は、平均で4メートルもの厚みがあるから、これは本当に斜面の表面だけが崩れ落ちただけ・・・いわゆる「表層崩壊」と呼ばれる現象であることが分かる。

これによってひとつ考えられることは、地表からわずか75センチほどの浅いところに、もしかしたら地すべりの引き金となった地層があるのでは??・・・ということである。
そこで、寺嶋先生たちのグループでは、斜面崩壊が起こった箇所の地層を、精密に調査し、1つ1つの地層が具体的にどれだけの雨水を透水する(通す)のか調べたそうだ。

それによると、地表からだいたい1メートルほどの深さのY1.0あるいはY2.0と呼ばれる地層の底面で、水の流れが非常に悪い地層(難透水層)が実際に存在していることが、確認された。

この難透水層がある深さは、場所によって少しずつ違うが、調査した箇所では、地表から深さ90センチくらいのところから、急に水はけが悪くなっていたという。
地表から90センチまでは水はけが非常に良く、計算上では台風26号の時に降った雨もすべて下の地層へ流してしまえるほどだった。

ところが、深さ90〜100センチのところに来ると、雨量に換算すると1時間あたり20ミリ以下しか透水しない地層が出現する。
その下の100〜110センチの地層にいたっては、1時間あたりわずか1ミリ以下の雨量しか透水させることができないというのである!!!

つまり、多量の雨が降ると、ここの地層から上に、浸透しきれない水がたまってしまい・・・限界を超えると、ここの地層を境にして地すべり=斜面崩壊が発生してしまう・・・ということかも知れないのである。

この難透水層の深さを考えると、水を蓄えられる土の厚みがだいたい1メートル分ということになる。
そして、一般的に土に含むことができる水の量は、だいたい体積の50%くらいなのだという。
・・・とすると、1メートルの厚みの土壌に含むことができる水の量は、ざっくり単純に考えれば500ミリほど・・・ということになる。

それが即ち、地面が雨水を吸収できる限界点ということになってくる。
つまり、雨が500ミリ降ると地面から水があふれ出す・・・ということである。
そしてもしも、その限界点付近で地すべりが発生するのだとしたら・・・「短時間に500ミリ以上の大雨が降ると、高い確率で地すべりが発生する」ということになってくる。



短時間に500ミリ以上の大雨が降ると、地すべりの危険が高まる


時間の経過とともに地下水が上昇していった様子

もちろん、場所によって降る雨の量や強さも違えば、斜面の角度や難透水層の深さも違い、風や植生などの条件も変わってくるので、一概に「500ミリの雨が降れば地すべりが起きる」とは断定できない。
しかし、おおまかに言ってそういう傾向がある・・・ということは言えるだろう。

実際に、今回の災害で、各種の気象データを検証してみると、だいたい雨量が400〜500ミリに達したところで、地すべりが発生しているのである。
被害の大きかった元町地区だけでなく、泉津地区でも、推定400〜500ミリあたりで斜面崩壊が多数発生している。
(→詳しくは、「元町溶岩は災害の原因なのか??」「本当に雨量が原因なのか??」を参照のこと。)

計算上で地中から水があふれ出す時刻と、実際に斜面崩壊が発生した時刻が、だいたい一致しているのである。
(※上の画像を参照)

さらに補足情報としては、55年前の狩野川台風の時にも、総雨量は約420ミリほどで、累積雨量が380ミリほどのところで斜面崩壊が発生したと考えられている。
このケースでも、条件的にはだいぶ近いと言えるだろう。

それから、斜面崩壊の現場には、あちこちに「パイピングホール」などと呼ばれる、水が地中から吹き出した穴の跡が見られる。
このことからも、地中の水が飽和してあふれ出し、おそらくほぼ同時に斜面の崩壊が起こった・・・という推論ができるように思われる。

それにしても、あふれ出した・・・というのは実は生やさしい表現で、このパイピングホールの痕跡を見れば、実際には鉄砲水のように「激しく吹き出した」というのが正確なところだろうと思う。

水が吹き出したから斜面が崩壊したのか、それとも斜面が崩壊したから水が吹き出したのか・・・どちらが先かは分からないが、いずれにしろ、地中の水が飽和したことは間違いないだろう。

水が吹き出して穴があいた「パイピングホール」の痕跡がいたるところに



本当は、伊豆大島のいたるところが危険地帯??


同じような「難透水層」は、今回の斜面崩壊地点だけでなく、伊豆大島全土にまんべんなく存在しているのだという。
その深さもだいたい共通して1メートル前後であることから、伊豆大島ではどこでも、短時間に400〜500ミリの雨が降ると、斜面崩壊の危険が極めて高くなってくると考えられる。

松四先生からは、雨量だけでなく、降雨強度や降雨パターンなどの条件も重要であること、そして特に一番重要な条件として「30度以上の急斜面」ということが付け加えられた。
つまり、あくまで大まかな公式ではあるが、「30度以上の斜面に500ミリの降雨が供給されると、斜面の表層崩壊が発生する可能性が極めて高い」・・・ということが、ひとつの目安として言えそうなのである。

その他にも、風の影響や植生の影響なども絡んでくるわけではあるが、最大の要素である雨量と斜面の角度・・・ということで、おおよその説明がつくように思われる。

斜面の角度で安全性を考えるならば、北の山・差木地・岡田新開地区は、なだらかな地形で山が迫っていないので、比較的安全と言えそうである。
ただし、これらの地区にも、山から流れてくる沢がたくさんあるので、橋が流木ガレキで詰まったりして洪水が起こる可能性は、やはり認識しておいた方が良いだろう。

その他の、泉津・元町・野増・間伏あたりは、山の斜面が近く、土石流の直撃の可能性があるので、常に警戒を怠らない必要があると言える。

ところで、セミナーの後半では質問タイムを設けたのだが、気象に詳しい島民の方から「人的被害はなかったものの、過去数年に150ミリほどの雨量でも地すべりが起こった事例もあり、単純に雨量だけを要因として考えないほうが良い」という指摘がされた。

確かに、自然災害は、ひとつの公式ですべて説明できるほど単純ではなく、様々な要素や条件が絡み合って起こるのだということを、忘れてはならないだろう。
これについては、大変興味深い指摘だったので、後ほどまた少し検討したいと思う。

質問タイムには、みんながたくさん質問することができたよ!!


風化した火山灰「レス」が、水を通しにくい地層を形成する


では、なぜこのような「難透水層」が、伊豆大島の地層の中に存在しているのであろうか??
本来は、水はけが良いはずの火山灰層の中に、なぜこのように水を通しにくい地層があるのか??

伊豆大島に限らず、火山灰でできた地層というのは、テフラレスという2種類の火山灰が順番に積み重なり、成層構造をなしているのが観察される。

テフラ層というのは、火山が噴火している時に降り積もった火山灰のことで、灰だけでなくスコリアや軽石・小さな石片を含むこともあるが、一般的に黒っぽい色をしている
それに対してレスというのは、火山の噴火がおさまっている時期に積もった地層で、風であおられた火山灰が再び降り積もってできるもので、黄色い色をしているのが特徴だ。
(※ただし、レス層は水に濡れると黒っぽく見えるので見分けがつきにくくなる。乾いているとハッキリ黄色に見える。)

つまり、火山灰の地層というのは、黒いテフラ層と黄色いレス層が交互に積み重なってできているのが特徴で、通称バームクーヘンとも呼ばれる「地層大断面」という伊豆大島の観光名所でも、その構造と特徴をよく見ることができる。
(※下の写真を参照)

この「レス」という地層がどのようにしてできるのかは、実は、まだ詳しく解明されていないそうなのだが、伊豆大島だけではなく、どこの火山地域にも当たり前に存在する地層なのだという。
(※有名な関東ローム層も、レス層の一種なのだそうだ。)

そして、斜面崩壊について問題になってくる地層こそ、他ならぬこのレス層なのである。

我々が一般的に、「火山灰は水はけが良い」としてイメージしているのは、先に述べたテフラ層のことなのだが、レス層というのは、同じ火山灰でも、性質がまったく異なる。
レス層は基本的に水の浸透が悪く、レス層こそが、今回の地すべりの原因となった「難透水層」なのである。
他の火山地域でも、たびたびこの地層が地すべりの原因となっているようである。

それでは、そもそもこの「レス」とは一体何なのだろうか??
よく分かっていないとは言っても、何か手がかりくらいはあるはずだ。

レスもまた火山灰であることには違いないので、多くの性質では普通の火山灰(スコリア)と変わらないそうである。
ただ、水はけだけがなぜか極端に悪い・・・ということなのである。

ひとつ考えられることは、テフラ層の火山灰の場合は、大きな粒も小さな粒もごっちゃになって混ざっているので、水が通るすき間がたくさんあるが・・・レス層はその逆なのではないか・・・ということだ。

レス層は、長い時間をかけて、風によって舞い上げられた火山灰が、降り積もってできたものである。
当然、風に乗って飛んでいくのは、小さくて軽い粒子ばかりだろう。
風によって選別されて小さな粒子ばかりが集まれば、当然、水が通るすき間も小さく少なくなってくる。

それに、レスの粒子の方が、テフラの粒子に比べると、崩壊と風化が進んでいる・・・らしい。
風に飛ばされてあちこちにぶつかるだろうし、地表面に降り積もって、長い年月、太陽光線や空気にさらされているわけだから、その分だけ崩壊が進んでいくのだろう。

レスの色が黄色いのも、鉄分が酸化した影響ではないか・・・という話だったので、空気に触れることで酸化して、それによって粒子の崩壊が進む・・・という影響も無視できないと思う。

物質としての崩壊が進んでいる・・・ということは、分解して、より細かく凹凸の少ない粒子になっていく・・・ということである。
そうなれば、やはり水の通るすき間は、ますます小さく少なくなっていくだろう。

このように考えれば、レス層が水を通しにくい理由は、一種の自然現象として理解できるようになってくる。

ちなみに、中国から飛んでくるあの「黄砂」っていうやつも、同じくレスというらしいのだけど、残念ながらくまっしぃの頭では、中国の黄砂と伊豆大島のレスの違いや関係までは、よく分からなかったでしー。

「地層大断面」には、テフラとレスの成層構造がよく現れている
(出典:伊豆大島ジオパーク・データミュージアム


 

地中奥深く何層にもわたって、水を通しにくい「レス」の地層が存在する


ここでもうひとつ考えなければならないことは、伊豆大島の火山灰層というのは、何十万年という年月を書けて何メートルもの厚みで積もっているわけであるが、 それがすべてレス層とテフラ層の成層構造でできている・・・ということである。

ということは、水を通しにくい「難透水層」は、単に地表から1メートルのところにある・・・というだけでは済まないはずだ。
当然、さらにその下の地層にも、おそらくバームクーヘンのように何層も存在している・・・ということが推測されてくる。

先に述べたように、火山が噴火している時代にはテフラ層が堆積し、噴火がお休みしている時代にはレス層が堆積していく・・・という関係にある以上、何十万年にもわたって、その2つの地層が交互に折り重なって作られてきているのである。
当然、水を通しにくいレス層=難透水層も、そのバームクーヘンの中に何層も何層も織り込まれている・・・ということになる。

つまり、今回の地すべりが起こった斜面のことを考えてみても、滑り落ちた土の下にもまた、同じようなテフラとレスの成層構造をした火山灰の層が残されているわけである。
そうすると、また同じような大雨が降った時には、下に残された火山灰層が、また同じように崩れ落ちてくるかも知れない・・・ということである。

一般住民からは、よく「一度、大規模に崩れてしまった斜面は、もう崩れる心配がなくなって安全なのではないか??」という素朴な疑問が出されることがある。
だが残念ながら、「その下の火山灰層が残っている限り、危険度は今後も同じだ。」 ・・・ということになるだろう。



狩野川台風と今回の災害を比較して考える


不鮮明で申し訳ないが、狩野川台風で崩壊した斜面を写した貴重な写真(大洞地区?と記載あり)

ところで、レス層が黄色い土だ・・・というので、ひとつ気になることがある。
(※以下、この項はくまっしぃ個人の思索である。)
今回の台風26号の土砂は真っ黒いテフラの色であったが、55年前の狩野川台風の時、山から流れてきた土砂はもっと赤っぽい色だった・・・という証言があるのである。
(※ただし、この証言は大金沢流域のもので、長沢流域はまた状況が違ったようである。)

もし、この時に黄色いレス層が崩れてきたのなら、黒いテフラと混じって赤っぽい色になったのでは・・・と納得できる気がする。

また、狩野川台風での斜面崩壊は、台風26号よりもだいぶ少ない雨量で発生している・・・という指摘もあった。(※もしかしたら300ミリくらいなのだろうか??)
当時の体験者の証言で、「山から流れてきた土砂は、土よりも水が多かった。台風26号の時のようにドロドロではなかった。」という話が多くあったので、やはり台風26号とは、同じ土砂災害ではあっても、性質が全然違うのだろう。

これらのことから考えると、どうも狩野川台風の時の斜面崩壊は、今回の台風26号よりももっと浅い地表スレスレで発生したのではないか??・・・と、私には思えてくる。

それに加えて、狩野川台風と台風26号は、崩れた斜面がけっこう重なっているという話もある。
(※参考→藤井工房ブログ  こちらを見ると、重なってのは部分的なようにも思えるが・・・。)
もしそうだとすると、狩野川台風で1度、表面が浅く削れた斜面が、さらにもう1度台風26号で今度はもっと深く削れた・・・という可能性があるわけだ。

もしかしたら狩野川台風と台風26号では、崩れた地層が違う・・・ということなのかも知れない。 

レス層とは、噴火が停止している期間に地表に降り積もって形成されるものである。
それであれば当然、今現在も地表面にレス層が作られ続けているはずであり・・・狩野川台風で崩れたのは、比較的近年に形成されたその表面のレス層とその周辺なのではないか・・・というのが、私くまっしぃの素人考えである。

上の写真は、数少ない狩野川台風の時の斜面崩壊の様子を捉えたものである。一見すると、崩れ方が今回の台風26号のケースと似ている気がするが、よく見て頂くと、崩れた斜面の周囲は低木か草地で、まともな木が生えていないことが分かる。(※手前に生えている森との比較)
とすると、やはりこの崩壊斜面は相当浅いものではないかと推測される。

蛇足になるが、「狩野川台風の頃は、炭焼きで木を伐ってハゲ山状態だった」という証言が、この写真でしっかり確認できる。
・・・ということは、もしかすると森林伐採の影響で、斜面崩壊までの雨量の許容値が、通常時よりも低下していた可能性も考えなければならないと思う。
(※ただし炭焼きのための木材伐採は、根本を残してそこから新しい幹を再生させるので、根こそぎにすることはないはずである。)

ところで・・・先ほどは難透水層(レス層)はだいたい地下1メートルのところにある・・・と書いたが、実際のところ、場所によって難透水層(レス層)のある深さは変わってくるはずだ。
例えば、斜面崩壊が起こって土が滑り落ちてしまったら、レス層がむき出しになるだろうし、そこにさらに上から滑り落ちてきた土が堆積することもあるだろう。

ということは、場所や条件によって、レス層までの深さは全然違ってくる・・・ということである。
「だいたい深さ1メートルのところにある」というのは、あくまでも平均的な目安に過ぎない。

そうすると、先ほどの「150ミリほどの雨量で地すべりが起きた」ということも、もしかすると説明の余地が出てくるように思われる。
つまり、レス層=難透水層までの深さが、たまたま30〜40センチほどしかない斜面があれば、150ミリの雨量で地すべりが起きることも、充分ありうるだろう。

そして、狩野川台風の時の斜面崩壊は、今回の台風26号の引き金となったレス層とはまた別の、もっと浅い地層が引き金になっているのかも知れない・・・ということである。
もちろん、この考えが正しいとは限らないが、レス層までの深さが場所によって違うという可能性は、充分に考えておくべきだろう。



「山崩れ」は、伊豆大島の構造的な宿命だった!!


崩壊した斜面には黄色のレス層がむき出しになっている。
よく見ると、パイプングホールが無数にできているし、斜面も段々になっている。

ところで、元町上流の斜面を分析していくと、斜面が(なだらかではなく)階段状にガクガクした形になってふもとに続いていることが分かったという。

これは、何百年という長いスパンをかけて、上から徐々に崩れてきているのが、ところどころ途中で止まっているから、階段状になっているのだそうだ。

今回崩れたのは、その中のほんの一部に過ぎないので、今後も同じような大量の雨が降れば、やはり他の箇所が次々と崩れ落ちてくる恐れがあるという。

こうして見てみると、三原山は、なにも今回が特別ということではなく、常に崩れ続けている山なのである。
小さな崩壊はしょっちゅう起こっているし、いつまた大きな斜面崩壊を起こすか分かったものではない。

これはつまり、山崩れというのが今回だけの一時的な問題ではなく、伊豆大島の構造的な問題なのだ・・・ということなのである。
そうであれば今後、人が住む地区の安全性については、よくよく考えていかなければならないだろう。

昔の人は、神達地区など今回の土砂災害に見舞われた地域には、決して住まないようにしていた。

実は、神達地区には元町住民の貴重な水場があって、昔は「あんこさん」と呼ばれる若い娘たちが、わざわざ遠く離れた元町から、毎日毎日、重い水を汲みに徒歩で通っていたのである。
普通は、どこの村でも水場の近くに集落を作るのが当たり前なのだが、元町の人々は、あえて不便な生活に甘んじつつ、神達の近くには絶対に住もうとはしなかったのだ。

おそらく、経験的にその危険性をよく知っていたのであろう。
例外的に代々居住してきた地元住民も居たが、その家には、山からの土石流を防ぐための「堤防(土手)が、おそらく戦前から存在していた・・・という話も以前にレポートしたことがある。

ところが、そうした代々の伝承や生活の知恵は、近代化とともに失われていったのである。
そして、昭和以降に人口が増加する中で、なしくずし的に神達や家の上など、それらの「本来は人が住まなかった地域」にも、宅地開発が次々と行われるようになっていったのだ。

その結果として、多くの人たちが、今回の未曾有の大惨事に巻き込まれてしまった・・・。

だが今は・・・逆に人口が急激に減っている時代なのであるから、危険な地域から人を撤退させていくことも真剣に検討するべきではないか・・・と、私くまっしぃとしては、個人的に考える。

「危険なところには住まない」という昔の人の知恵に、もっと素直に学んでも良いのではないだろうか。


セミナーで得られた成果を今後に生かしていこう


今回の解説セミナーで得られた知見は、これからの防災対策づくりにとても重要な情報である。
なにしろ今までは、私たち島民も、行政の人々も、おそらくほとんどの専門家も、このような伊豆大島の火山大地としての本当の特性を、まったく知らなかったからである。

繰り返しになるが、伊豆大島の大地は、何メートル・何十メートルもの堆積した火山灰でできており、その中には水はけの悪い難透水層が、バームクーヘンのように交互に何層も挟み込まれているのである。
従って、条件さえ揃えば、伊豆大島のどこであっても(※たとえ広い平地でも!!)土砂災害が起こる可能性があると考えるべきであろう。

この事実を知らずして、有効な防災対策や復興計画が立てていけるだろうか・・・??
ぜひ、これから行政の防災対策復興会議などに反映してもらえるように、この内容を伝えていこうと思っている。

最後に、セミナーの質問の時間に、「コンクリートで固める既存のハード対策ではなく、難透水層の奥まで穴をあけて、水を地下深くに浸透させるような仕組みは実現できないのか??」という質問(提案?)が出た。

実は、この質問をした人は、今までの専門家の災害セミナーでは必ずこの質問をしていたのだが、どの専門家もまるで一笑に伏すような態度で、1度もまともにとり合ってくれなかった
それが今回は、寺嶋先生の方から「理論的には可能です。ただ、それを実現するシステムはまだ存在していませんが・・・。」 と、初めて真剣なお答えが頂けた。

このように、住民の切実な考えをちゃんと向き合って聞いて頂けた・・・そのことが、くまっしぃとしては嬉しくて、寺嶋先生に今回のセミナーをお願いして良かった・・・と心から思うのである。
こうした住民自身の考えやアイディアも、ぜひ、これからの復興や防災に生かしていきたい。


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